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 今度の明伯父の足跡を辿る旅のキッカケは、私が東京をガイドしたMoresky夫妻(MarcLana)との出会いだった。MarcOhioWilloughbyの歴史同好会の会長Ron Taddeo氏を紹介してくれたことで、この90年間の事情が分かってきた。そのMoresky夫妻には、今回もお宅に泊めてもらっただけでなく、こちらの観光ガイドもやっていただいた。

 その一つが、Amish村の見学。Amishというのは意識的に現代文化を拒否して、極端に素朴な原始生活をする人たち。ドイツで始まった原理主義キリスト教の一派で、アメリカでは特にペンシルバニア州や隣のこのオハイオ州に多いようだ。しかしMarcLanaは近くに住んていてもAmishには関心がなく、この見学は私が興味を感じて彼らに案内を頼んだのが実際のところで、彼らはユダヤ教徒だし、宗教が違うので困惑したかもしれない。

 とにかくMarcさんの車に4人乗って出かける。まず向かったのは、彼が住むShaker Heights, Ohioの東方約35キロにあるBurtonという町。そこにあるRed Maple Inn (14707, S Chesshire St., Burton) からバンで案内してくれるツアーにLanaさんが申し込んでくれていた。その周辺で点在して暮らしているAmishの人たちの村を、130ドルで2時間、車でガイドをしてくれる。ガイドの女性はAmishではないが、その周辺に住み、Amishの暮らしを見る機会も多く、Amishの友人も多いという若いアメリカ女性。

 文明が最も進んだと思われているアメリカで、100年前の生活を守って生きている集団がいることだけでも特異なことだが、そこには実際タイムスリップしたような生活がある。まず電気がないので、洗濯も洗濯板を使って手で行う。洗った洗濯物は長いロープに吊るされて高く風にたなびく。その洗濯物を見ると、タオルなどを除いてほとんどが白か薄青の衣類。目立つ色は禁止。だからどの家を見ても、窓辺にかかるカーテンは白。子供は夏は屋内も屋外でも裸足で過ごし、もちろん化粧の類はご法度。テレビもラジオもなく、電灯の代わりにガス灯が燃える。店に入っても、薄暗いところは昼間でもガス灯が音をたてて燃えている。スーパーマーケットには、聖書や宗教行事のカード、宗教的な絵本などもたくさん置いてあるが、野球のグローブなどと並んで、本物の猟銃などは置かれている。電気冷蔵庫もなので、冬に池の氷を切り出して保管し、街角の大きな保冷箱に入れて保管し、家のIce Boxに入れて冷蔵庫代わりにする。水も一応水道管で配水するが、雨水をためて使っているところもある。自動車は一切禁止。馬車がハイウェイをゆっくり進む。当然自動車にぶっつけられる事故が増えて、やむを得ず、馬車の後ろに大きな赤い三角の目印を付けることになったとか。しかし小さな子供が仔馬の引く小さな馬車を走らせているのは一見平和そのもの。また動物は大切にされ、彼らの関心も強い。店に売っている動物の模型など、実に細かい精密な作りになっていて驚く。

 彼らのための学校もあり、9割以上の子供は小学校8年で終り、そのあとは家庭に入る。牧畜や耕作による自給自足が普通なので、それを支える労働力が必要なのだ。大抵は22-24才で結婚し、平均7人の子供を作る。男性は結婚するとヒゲを生やす。電話も携帯もダメだが、緊急の必要性から街角に1つだけ電話ボックスを置くことになったとか。それにカメラもダメ。ヒゲを伸ばした老人に一緒に写真を...と言ったら、即座に断られた。「見世物じゃないぞ」という自負心と自信が垣間見えた。

 平和を愛する彼らは決して訴訟をしない。一般の家庭内も見せてもらったが、戸棚やテーブル・椅子などの他は何もない。8年生以上の学校はないので、職業も限られ、農業、牧畜、大工、木工職など単純な職業につく。木工は彼らの得意とする分野だが、製材所の動力は電気モーターが使えないので、蒸気エンジン。でも彼らの顔には素朴で満足げな表情があり、思いやりがあり、控えめだ。

 Amish地区の一番東側にある雑貨屋、その名もEnd of Commons General Storeで一休みする。店の外に置かれたベンチでLanaさんが用意してくれたサンドイッチのランチを広げる。何かカウボーイでも出て来そうな建物では、特産のメイプル・シロップやお手製の様々の種類のチーズを売っている。入口にはAmishの動くヒゲの蝋人形が置かれ、写真を嫌う彼らの代わりに被写体になって「自動的に」観光客の相手をする。そとには巨大な彫像のAmishの狩人がある。ここでMarcLanaの記念撮影。2人がずっと住んできた場所から1時間以内の村だが、来たことがないようだ。でも、全部で26万人居るAmishのコミュニティで、これでも4番目に大きな村だそうだ。

 夜にMLBの試合に行こうということになった。ClevelandIndiansの本拠地だそうで、市内にProgressive Fieldという大きな野球場がある。今日は近くのシカゴCubsとの試合。車を駐車するのがここでも大変。大渋滞の中、やはり彼等は土地の人だけあって、心得たもので、親戚が持っている近くのカジノの会員券を借りてきていて、球場に隣接するカジノ駐車場にうまく停める。どうせ試合は長くは見られないから一番安い席で...と言うと、外野の上の14ドルの、席を買ってくれる。一応番号の付いた指定席だが、実際は外野の中段も空きがバラバラあり、そこに適当にもぐりこむ。たまたまソフトバンクからシカゴ・カブズに移籍した和田投手が先発して好投して零点で抑え続けている。ところが地元のインディアンズの投手はダメで、次々にホームランを打たれる。球が飛んでくると観客は奪い合う。シカゴはすぐ近くでもあり、カブズのファンも多い。結局一方的なゲームで10-0になり、7回で席を立つ。外に出ると、球場の周りは野球バーが林立する。そこでは野球の大きなテレビ画面が何台も壁に並べられ、ビールや食事をしながらワイワイ「場外観戦」している。同じバーで他球場の中継も幾つもあり、アメリカ人も本当に野球狂だ。結局我々が見た試合は17-0というとんでもない差で、和田のカブスが勝利したが、ここインディアンズのファンの熱はそのくらいではとても冷めないようだ。Marcはジャズのレストランに連れて行ってくれる。まだ時間が早いのか、演奏は準備中だったが、デキシーランド・ジャズで懐かしい面々のポスターが張り巡らされたレストランで、軽くスープを食べる。アメリカの大量食事は危険に感じて、あえて少ない料理をお願いするうちに彼らも分かってきて、同じように小食になった。だが、お蔭様で極めてアメリカ的な有意義な1日を過ごすことが出来た。 

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今日は夕方、オハイオ州民主党上院議員立候補者Ted Strickland氏の資金集めのパーティへ行くことになっているが、それまでは道彦と私だけで自由に動くことになっている。University Circleと言われる一帯が、上野のように、美術館、博物館などが集まっている地域で、特にクリーブランド美術館は世界的にも有名なものとのこと。昨日Marcさんからも駐車の仕方などの指南は受けていたのだが、実際に行ってみると結構大変。タダで停められる場所を探してみるが、広いアメリカも都市部はフリーな駐車スペースはない。パーキングメーターは25セント(Quarter)コインが沢山ないと使えないし、設定が面倒。結局、8ドルはやや高めだけど美術館の駐車場が便利ということになる。

何度も金をかけて充実させ、この美術館は昨年その最後の改築が完了したばかりで、ゆとりのある空間とその豊富なコレクションには驚く。古代エジプト、ギリシャ、ローマから始まり、ハプスブルグ、オスマントルコ、インド、東南アジア、中国、韓国、日本に、もちろんアメリカ自身の展示もあり、盛りだくさん。電子的な検索の工夫もあちこちに見られて、アメリカの中都市なのに、こんな膨大なコレクションが持てるのはさすがにアメリカだ。しかもフラッシュは使えないが、撮影禁止の展示物は1つもないので、特徴的な展示物と説明書きをデジカメで取っていて、気が付いたら700枚近くになっていた。日本関係では妖怪の巻物や禅僧の像など、これもアメリカ好み中心のコレクション。カフェテリア方式のゆとりのある食堂も合理的。

 美術館のすぐ前に、植物園もある。あまり期待しないで入ったが、珍しいものにも出会った。「星の王子様」のバオバブの木。アフリカの一部でしか見られないと思っていたら、何とアメリカにあった。もちろん巨大な温室での栽培だが、それも本当に巨漢の幹。まさに樹木のお化け。一方、温室の片隅では係員がカメレオンを抱いて見せてくれる。何とカラフルな鮮やかさ! まるで虹をかぶった大きなイモリ。温室では青い大きめの蝶も飛び回る。外に出ると種々の庭が広がる。「日本庭園」は枯山水のつもりだと思われるが、砂や砂利の代わりに芝生。緑も多い。イギリス庭園は雑然とした中に花が目立つ例のパタン。子供向きに工夫を凝らした庭も。切り株を椅子代わりに使うのはよくあるが、切り株を残すときに背もたれに使える部分を残して作った天然イスで休憩。

 4時近くになったので、そのままMarcさん宅へ。Lanaさんの友人のWagerさん宅で行われる上院議員候補Ted Strickland氏応援のパーティへ。あまり服装を気にしないMarcさんも一応シャツにジャケット。Lanaさんも正装している。我々もシャツに上着。Wagerさん宅も深い木々に囲まれた高級住宅地にある。日本と違って、約束の時間の前に着くのは礼儀に反していて、約束時間の10分から12分後に到着するのが礼儀なのだとMarcは言う。我々の車は少し早く着きすぎたので、Wagerさんのお宅が見える道路の上で駐車してしばらく時間をつぶす。しかし同じように早く来過ぎたと思われる車が他にも何台かグズグズしている。やっと「正しい」時間が来て、暗くなりかかって照明のきれいな玄関に向かう。

 広々とした応接間とそれにつながる食堂にはもう10-15人位の人たちが立って談笑している。パーティの主催者のWagerさんや上院議員候補のStrickland氏に紹介される。我々は資金の協力をするわけではないことは分かっているが、はるばる来てくれたというので、丁寧に扱ってくれる。近くに住む各界の名士もかなり居るようで、紹介される。そのうちWager氏が司会者としてみなに挨拶をし、Strickland氏を紹介。彼は出席者に自分の主義主張を詳しく訴えて協力を頼む。民主党が共和党に負けたのは、最高裁の組織や人脈が問題なのだという。自分は一般の市民階級から出てオハイオ州知事になり、苦労したが、今の問題は広がり過ぎた格差の是正だと強調する。それに対して、聞いている側の人たちからも、「ヒラリー・クリントンのメイル問題をどう思うか?」 とか、「実際当選する可能性はどのくらいあるのか?」とか率直な質問が相次ぐ。単に付和雷同する同調者の集まりかと思っていたが、歯に衣を着せず、真剣な議論を戦わすのは、やはり民主主義が育つ地盤を持っている国だという感じがした。しかし実際、テレビの政策宣伝にいくらお金をかけるかで、選挙の勝敗が決まるので、このような資金集めの会は必要だという。庶民の党のようではあっても、金持ちのエリートが引っ張っている感じはぬぐえない。Strickland氏もまず民主党候補者同士の予備選に勝ち、共和党の候補者との一騎打ちに勝たねばならず、しかも上院議員は州で1人だけなので、これから来年にかけての長丁場になりそうだ。6/23Lanaさんから届いたメイルでは、直近の調査ではStrickland氏が宿敵のPortman氏を46%対40%でリードしていると喜んでいた。Wagerさんの家を出ると周りの森のスカイラインの上に夕焼けがきれいだった。彼の未来の光を表していればいいのだが...。 <終り>

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